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公共空間を前提とした臨床宗教師の活動について

公共空間を前提とした臨床宗教師の活動について

臨床宗教師に限らず、宗教者が自身の寺社、教会などの宗教施設や境内施設で門信徒や地域住民を対象に、従来行われてきた葬儀や法事、祭事や行や祈祷などの宗教活動に加えて、より広い範囲でケア活動や支援活動などに取り組むケースが増えてきています。こうした活動は宗教本来の社会的役割を広げるものであり、むしろ将来性のある頼もしいものと見られ歓迎されているところもあります。被災地で宗教者によって行われる支援活動や、寺社、教会などで行われる子ども食堂や高齢者介護支援などはその良い例でしょう。

臨床宗教師会は多様な信念や価値観が併存している現代社会で、宗教者がこれらの活動に取り組むことを促進するために創設されたものです。現代社会でのケアや支援活動は、特定宗教の信徒以外のさまざまな立場にある人々を対象に行われることが多くなっています。その場合、求められているケアや支援の活動を行うことは、特定宗教の宗教活動や布教・伝道・教化活動とは区別される必要があります。また、営利活動的な活動形態に類似したものついてはとくに注意が必要です。たとえば、有料傾聴ウェブサイトでの傾聴活動への参加です。臨床宗教師会は会員が有料傾聴ウェブサイトに宗教者として関与することを妨げるものではありませんが、臨床宗教師の活動としてはそれは妥当ではないとしています。

臨床宗教師の活動は公共空間におけるケアや支援の活動であり、だからこそ行政や医療等の他職種の人々など、多様な立場の人々とも協力して行うことができるものとなります。臨床宗教師として行われるケア活動や支援活動は、特定宗教の宗教者の立場でなされる活動とは区別し、ケアや支援をともに行う立場の人たちや、ケアや支援を受ける立場の人たちが、特定宗教の活動に巻き込まれたり、引き込まれたりするような懸念なくその場に加われるようにすることを重視しているのです。

自らが主体となる寺院、神社、教会等の宗教施設でさまざまな活動を行うことは、おのずから布教・伝道、あるいは教化活動につながる可能性があります。布教・伝道・教化活動に属するものを宗教者として行うことはもちろん問題がないのですが、それを臨床宗教師として行うことは慎もうということです。

臨床宗教師の活動は多様な宗教・宗派、また無宗教の人、それぞれの立場を尊重する公共空間で行うものであり、特定の宗教を押し付けたり、あるいはそれが共有されているという前提にそって行うものであってはならないとしています。たとえば、僧侶や牧師や神職や教会長などの宗教者が、臨床宗教師という資格を掲げて自らの信仰を受け入れるように働きかけるようなことがあると、関係者はそのことがもたらす葛藤や対立などを懸念して、場をともにすることがしにくくなります。そこで、「布教・伝道・教化とは異なる、宗教施設外の公共空間におけるケア活動」として臨床宗教師の活動は位置づけられてきました。

では、特定の宗教施設で行われるケアや支援の活動はどうでしょうか。結果として布教・伝道・教化につながらないならば、また、布教・伝道・教化をしているという誤解を生むことのないような形ならば、寺や神社や教会等の宗教施設を適宜、公共空間と想定してケア活動を行うことも可能です。ただ、自らの布教・伝道・教化の場である宗教施設において臨床宗教師としてケアや支援の活動を行う場合には、それが布教・伝道・教化につながらないことを明示するような配慮が必要となります。

そこで、寺社、教会等の宗教施設で行われる活動で地域住⺠の参加を促す活動のうち、すぐに布教・伝道・教化につながりうることを前提とする「宗教者としての活動」と、それを前提としない「臨床宗教師としての活動」を振り分けるという必要が生じます。

公共空間においてと同様の活動を展開する場合、来場者側の受け止めの混乱を避けるためにも、宗教者としての活動と臨床宗教師としての活動に線引きを行い、分けたチラシを作ることや「これは臨床宗教師としての活動です」といった文言の注意書きを記すこと、営利や信徒集めを目的としていると受け取られないよう注意することなどを注意事項として共有するようにしています。

また、新聞をはじめ各種報道の取材をお受けするにあたっては、臨床宗教師としての記事や放送であるのか、あるいは宗教者としてであるのかを報道機関に事前に確認し、読み手や受け手に混同が起こらないように努め、報道各社のご理解と協力をいただくように説明することなどを注意事項としています。

令和5年4月13日

日本臨床宗教師会

会長 鎌田東二

公共空間を前提とした臨床宗教師の活動について メディア向け

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